制作サイドの自覚なき偏見
バイセクシャルなら誰とでもキスするというのか、マクドナルドCMの不快さ
日本マクドナルドが制作したCMが炎上し、動画がインターネット上から削除された。炎上した動画は、5人のお笑い芸人たちがテーブルを囲み、「ナゲッツゲーム」をする内容だった。
ゲームでミスをした男性(ダンディ坂野)に対して、お笑いコンビ・メイプル超合金のカズレーザーがキスしようとし、怯える表情のダンディ坂野がクローズアップされて終わる。
カズレーザーは、男性とも女性とも交際経験のあるバイセクシャルであることを以前から公表している。
ちなみにこの動画の中で、カズレーザーの相方である安藤なつは、ダンディ坂野をその体で押さえつける役を担っている。
制作側が自らの偏見に気付いていないことがわかる良いケースだと思う。このCMは、「ゲイ(もしくはバイ)の男性は男性なら誰でも性的な対象にする」という偏見の基に成り立っている。
異性愛者の男性が女性なら誰でもいいわけではないのと同じように、同性愛者の男性も男性なら誰でもいいわけではない。なぜ異性愛者の男性にとってだけ、キスが罰ゲームだと描いているのか。
そもそも、相手の同意なく性的な接触をすることを「楽しいゲーム」の一環であるかのようにファミリー向けファーストフード店がCMをつくることがおかしいのだ。
そしてさらに、カズレーザーが男性にキスをしても、彼自身が傷つくことはないかのように描かれるのがおかしい。彼がバイセクシャルだから、誰と性的な接触をしても彼は傷つかないのというのだろうか? キスされる男性にとっては「罰ゲーム」なのに。
無茶苦茶だ。ひどすぎるだろう。
カズレーザー自身がキスをOKしていたかどうか、という問題ではない。
この演出自体がバイセクシャルやゲイへの偏見の追認であることを指摘している。
確かに、ゲイやバイセクシャルはメディアを通じてそのような描写のされ方をしてきた。そのように振る舞うことを求められて、テレビカメラの前でそう演じてきた人もいるだろう。
人は多様であるのに、マイノリティであればあるほど枠にはめられやすい。
バイセクシャルが好色家のように描かれることだけではない。「障がい者はいい人」「ハーフは美人」なども、勝手にあてはめられる枠だ。
「不細工」芸人からのキスも罰ゲーム
性的な接触を罰ゲームとすることについて、もう少し書きたい。
女性タレントに男性タレントが性的な接触を行う罰ゲームは、今のテレビではほぼ見られない。
その生々しさに不快感を覚える人が多く、セクハラであると厳しく糾弾されるからだ。一昔前、とんねるずの石橋貴明はゲストの女性タレントにセクハラを行い、それが「ネタ」として受け入れられていたこともあったが、現代では無理だろう。
男性タレントに女性タレントが性的な接触を行う罰ゲームは、あまり見られない。「罰にならない」からだ。それどころか、女性ゲストが男性の頬にキスをすることが「ご褒美」であることさえある。
美しい女性ゲストから性的な接触をされることを嫌がる男性はいない、ということになっている。
だが、これが「不細工」枠にいる女性お笑い芸人の場合は別だ。彼女たちとのキスは、男性芸能人への罰ゲームによく用いられる。
「ビジネスキス(罰ゲームでのキス)の達人」と呼ばれる女性芸人もいて、その回数がランキングで競われるほどバラエティ番組では頻出している。
とても幼稚な演出だと思う。
見た目が劣るお笑い芸人であれば、異性へのキスは相手に対しての罰ゲームとなる。キスする本人が「イヤがる」わけがない。なぜなら「不細工」だから。
そして男性ならば、そのような性的な接触による罰ゲームは受け入れなければならない。なぜなら男性だから。このような偏った前提が当たり前のようにテレビの中から差し出され、視聴者はそれを受け取る。
不快に思う人もいるだろうが、「世の中はそういうものだ」と思っている人の方が多いからこそ、この幼稚な演出が繰り返されるのだろう。
下品だから規制しろと言っているのではない。日本のテレビは幼稚さをそのままに提供し続け、社会がそれをそのまま受け止め続ける。
成熟にほど遠いと言いたい。
意見をつなぐ、日本が変わる。BLOGOS引用
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